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  • Photo du rédacteurMari Okazaki

食べかけのリンゴがある世界



今朝、子が血液検査をしなければならなかったので、毎週水曜日は学童の日だけれど、少し遅れて行くことにして、近所のラボへ連れて行った。おフランスなので、毎週水曜日は学童の日だ。おフランスなので、前もって「この日は遅刻させます」と紙まで書かされた。おフランスなので。


ラボで散々待たされた後、子は勇敢にも 1 ミリも泣かず、狼狽えず、なんなら最後は注射針を凝視する様子まで見せて、無事に検査は終了。飴までもらって嬉しそうだ。


9 時半までに学童に連れて行く約束になっていたけど、ラボを出たのが 9 時半だったので、一応電話を入れておこうと思う。返信で来たメールの署名に書いてあった番号へかけると、職員が出る。「すみません!◯◯のママですが、今終わったので、少し遅れそうです。今向かっています!」と言うと、「分かりました、着いたらインターフォンを押して呼んでくださいね」と言われた。そうだよね、朝の受付時間が終わったら、ちゃんと鍵閉めるよね。防犯上、素晴らしいな、と思って足早に向かった。


9 時 40 分、学童に到着。言われた通り、インターフォンを押して、再度状況を説明する。


「今行きます」と言われて、見慣れた顔の職員の人がやって来た。真っ赤なペロペロキャンディーを食べてる子とは、ここでしばしお別れ。また夕方迎えに来るからねぇと思っていると、ふと目についたのは、現れた職員の人が片手に持っていた、食べかけのリンゴだった。


「◯◯、おはよう〜!」「キャンディー、もらったの!」「え、じゃああとでわたしにも分けてね」と、仲のいい会話が聞こえてくる。片手には、食べかけのリンゴ。


なんてことのない光景だけれど、日本の保育園では決して目にすることがなかったので、二人が去ると、心の中で爆笑してしまった。日本のサービスは、保育園に限らずどこも素晴らしいけれど、過度のサービスは逆に恐縮してしまうというか、『そんな、そこまで...』と思うし、『この人、今夜、すごく疲れてしまうんじゃないかな...』とか要らないことまで考えてしまう。少しだけ、申し訳なくて、居心地が悪いのだ。


ましてや、食べかけのおやつを手に持ったまま出てくるなんてこと、日本ではありえないだろう。先生が食事中の瞬間にたまたま立ち会って、先生が手で口を隠しながらこちらへ来て、迎えてくれるということならあったけど、食べかけのものを持ってきたまま対応してもらうということは初めてだったので、一瞬の、自然な光景だったけど、こういう対応の方が、至極人間らしいというか、気が張ってなくて、他者にも寛容というか、いいな、と思った。食べかけの、真っ赤なリンゴに立腹するような人間にはなりたくない。


あくまでリンゴは他者への寛容の象徴である。8 時から子どもを一斉に迎えて、きっと 9 時半過ぎには、一息つける頃なんだろう。そのリンゴなのだろう。お腹が減ったからちょっと食べる、もしかしたらあれは、彼女の朝食だったのかもしれない... いずれにせよ、ふらっとリンゴを手に持ったまま出てこられる、気楽な空気がいいな、と、真夏が近づく気温の中、しみじみ思った帰り道だった。

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